東京地方裁判所 昭和33年(ワ)7494号 判決 1960年4月30日
主文
別紙物件目録記載の不動産を競売に付し、その代金より競売手続費用を控訴した金額を分割し、原告両名及び被告に各三分の一ずつ配当することを命ずる。
反訴原告の反訴請求は、棄却する。
本訴及び反訴の訴訟費用は被告・反訴原告の負担とする。
事実
第一 当事者の申立
(原告・反訴被告の申立)
原告・反訴被告、(以下原告という。)ら訴訟代理人は、本訴について、「別紙物件目録記載の不動産は、別紙分割目録及び図面記載のとおり分割する。」との判決を求め、反訴について、「反訴原告の請求は、棄却する。訴訟費用は、反訴原告の負担とする。」との判決を求めた。
(被告・反訴原告の申立)
被告・反訴原告(以下被告という。)訴訟代理人は、本訴について、「原告の請求は、棄却する。」との判決を求め、反訴について、「別紙物件目録記載(一)の宅地について、被告が所有権を有することを確認する。原告森利雄は、被告に対し、同目録記載(二)の建物を収去して、その敷地である同目録記載(一)の宅地のうち北側十五坪五合四勺を明け渡せ。訴訟費用は、原告らの負担とする。」との判決並びに建物収去、土地明渡の部分について仮執行の宣言を求めた。
第二 当事者の主張
原告らの主張
原告ら訴訟代理人は、本訴請求原因及び被告の反訴請求原因に対する答弁として、次のとおり述べた。
一(一) 原被告らの生家である森家はその父からミシン加工業を営み、昭和十三年原告利雄が家業を譲られ営業主となり、原被告ら家族全員で協力して家業に従事してきたが、原告利雄は支那事変に応召して軍務に服し、また、父は昭和十六年一月死亡し、原告利雄がその家督相続をした。
(二) しかして、森家は戦災によつて住家を焼失したので、原被告三名は、昭和二十一年、それまで家業経営により蓄積した資金のうち、金八千円をもつて上村由次から別紙物件目録記載(一)の宅地(以下、本件土地という。)の借地権を譲り受け、金一万二千円をもつて、本件土地上に建坪十二坪五合のバラツク(以下、第一建物という。)を建築した。原被告はその共有とする目的で、前記借地権を取得し、また、第一建物を建築したのであるが、当時原告利雄はまだ復員していなかつたので、借地権も第一建物の所有権も、便宜、被告名義としておいた。
(三) 原告利雄は、第一建物の工事完成前に復員して来、原告慎一及び被告に協力して、これを完成した。
(四) その後、第一建物に約十五坪の建増(以下、この建増にかかる建物を第二建物という。)をすることとなり、その資材の代金四万八千円は原被告が共同で出し合い、労力はもつぱら原告利雄が、軍隊時代に習得した建築技術を生かして提供したものであるが、第二建物の所有権は便宜上被告名義とした。(第一、第二建物は、別紙物件目録(三)記載の物件と同一であり登記簿上一棟となつている。)
(五) しかして、昭和二十七年七月十一日、原被告は、本件土地を地主山本仁三郎から買い受けてこれを共有とし、その代金十五万六千二百三十九円は、原告両名が支出したものであるが、便宜上その所有権は、被告名義とした。
(六) ついで、昭和二十七年十月頃、原告利雄は、本件土地上に別紙物件目録記載(二)の建物(以下第三建物という。)を建築し、同じころ、第一、第二建物を改修したが、それらに要した費用は、いずれも原告両名及び母が家業であるミシン加工業によつて得た金員をあてたものである。
(七) しかして、本件土地の借地権及び第一建物についてのみならず、のちに取得した本件土地所有権及び第二、第三建物についても、いずれも原被告の共有とする旨の合意が成立したものであり、その持分は均等である。
(八) しかるに、被告は、本訴物件のすべてについて、その共有であることを争い、原告らの要求する分割に応じないので、本訴をもつて、前記共有物の分割を求める。
二 なお、被告主張の反訴請求原因事実中、原告らが本件土地について、共有を主張し、分割の訴を提起したことは認めるが、その他の事実は否認する。
被告の主張
被告訴訟代理人は、原告の本訴請求原因事実に対する答弁及び反訴請求原因として次のとおり述べた。
一 原告主張の本訴請求原因事実中、本件土地の借地名義及び第一建物の所有名義が被告であつたこと、第二建物の建築にあたり、原告森利雄が労務を提供したこと、第二建物及び本件土地の所有名義がいずれも被告となつていること、原告森利雄が第三建物を新築し、同じころ、第一、第二建物を改修したことは、いずれも認めるが、本件土地の借地権取得及び第一建物の建築による所有権取得が原被告の共有とする目的でされたこと、それらに要した費用が、原告利雄が相続した家業を被告、原告慎一及び母の三名が協同経営して得た資金の中から支出されたものであること、第二建物の建築費用を原被告が共同で出し合つたこと、本件土地を原被告が買い受けて共有とし、その代金を原告両名が支出したこと、第三建物の新築並びに第一、第二建物の改修の費用が原告両名及び母のミシン加工業により得られた金員でまかなわれたこと及び本件土地建物を原被告の共有とする旨の合意があつたことは否認する。仮に本件土地建物のうち、いずれかが原被告の共有であるとしても、その持分は均等ではない。また、仮に持分が均等であるとしても、原告主張の分割方法によつては、平等な価格による分割はできない。
二(一) 本件土地は、被告の単独所有であるにかかわらず、原告らは、これが原被告の共有である旨主張し、その分割を求める訴を提起した。
(二) しかして、原告利雄は、被告所有の本件土地上に第三建物を所有し、その敷地である北側十五坪五合四勺を占有している。
(三) よつて、被告は、本件土地が被告の所有に属することの確認を求めるとともに、原告利雄に対し、その所有建物を収去して敷地を明け渡すべきことを求める。
第三 証拠関係(省略)
別紙
物件目録
(一) 東京都台東区浅草田中町二丁目六番地一
一 宅地六十七坪九合三勺
(二) 右同所所在、家屋番号同町六番の十三
一 木造瓦葺二階建店舗兼居宅一棟
建坪 十三坪二合一勺
二階 十三坪二合一勺及び未登記中二階五坪
(三) 右同所所在、家屋番号同町六番の十七
一 木造トタンスレート交葺平家建居宅兼店舗一棟
建坪 二十七坪三合七勺(実測二十二坪六合二勺)
分割目録
一、森利雄分
東京都台東区浅草田中町弐丁目六番地ノ壱宅地六拾七坪九合参勺の内北側の(イ)(ロ)で区劃した拾五坪五四の土地
東京都台東区浅草田中町弐丁目六番地壱家屋番号同町六番ノ拾参、一木造瓦葺弐階建店舗兼居宅壱棟建坪拾参坪弐合壱勺、弐階拾参坪弐合壱勺の建物(添付図面紅色の分)
二、森慎一の分
東京都台東区浅草田中町弐丁目六番地ノ壱宅地六拾七坪九合参勺の内中央部ノ東側と北側にて添付図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)で区劃した拾五坪五四五の土地
東京都浅草田中町弐丁目六番地壱家屋番号同町六番ノ拾七、一木造トタンスレート交葺平家建居宅店舗壱棟建坪弐拾七坪参合七勺(現在実坪弐拾弐坪六合弐勺)の建物の東側と北側にて添付図面の黄色部分壱階の拾参坪八合七勺の建物
前の森利雄分の二階に接続した中二階五坪(図面黄色分中二階未登記)
三、森政雄分
東京都台東区浅草田中町弐丁目六番地ノ壱宅地六拾七坪九合参勺の内以上利雄、慎一の分を除いた残余参拾六坪八四五の土地
東京都台東区浅草田中町弐丁目六番地壱家屋番号同町六番ノ拾七、一木造トタンスレート交葺平家建居宅店舗壱棟建坪弐拾七坪参合七勺(現在実坪弐拾弐坪六合弐勺の内南西の添付図面青色の部分八坪七合五勺の建物)
右政雄分宅地南側にある建坪弐拾参坪五合、弐階弐拾参坪五合の建物(政雄単独所有分)
<省略>